ディープロ

2020年3月18日

エンジニアキャリアでの動機付け要因と衛生要因

「エンジニアキャリアでの動機付け要因と衛生要因」というテーマで、スナップマート株式会社の取締役CTOの星 直史様にディープロ代表の野呂が、仕事を選ぶ際の指標やキャリアに対する考え方について伺いました。

エンジニアとしてのキャリアを築くのに、何を基準に仕事を選んでいけばいいのか、迷われる方は多いと思います。会社の理念やビジョン、その会社で得られる経験や学び、年収や待遇…と判断材料はたくさんあります。
今回は、「エンジニアキャリアでの動機付け要因と衛生要因」というテーマで、スナップマート株式会社の取締役CTOの星 直史様にディープロ代表の野呂が、仕事を選ぶ際の指標やキャリアに対する考え方について伺いました。

【こんな方におすすめ】
・エンジニアキャリアをどのように築いていくか悩んでいる方
・条件の折り合いをつけられなくて迷っている方
・自分のキャリアについて行動指針が欲しいと思っている方

【目次】
1.仕事を選ぶときに意識するのはカルチャーマッチ
2.理念への共感とエンジニアリング…二律背反な状況を想定して、納得できるまで考えた方が良い
3.自分のキャリアについて時間をかけて考えを深めてみよう
4.まとめ

■話し手
ディープロ 代表 野呂 浩良
スナップマート株式会社 取締役CTO 星 直史様

仕事を選ぶときに意識するのはカルチャーマッチ

Image from Gyazo

以前あった1on1の会話の中で、動機付け要因と衛生要因に関するお話がありました。今日はそのお話をしようと思います。
ピクスタ株式会社のメンバーのひとりが「年収が低いです」と言ったときに、私がその方に「転職したら良いんじゃない?」と言ったら、その方は「自分がここにいる理由は、お金が目的ではないんだ」ということに一発で気付いたんです。
瞬間的に閃いたという感じではないのですが、時間をおいて「ウチにいる理由は、年収ではなくて、何を学べるかだった」ことに気づいたんですね。

また、「入社当初に何を重要だと思って意思決定したのか」という点で、理念やビジョンがポイントだったんですね。そのため、今いる会社がそこを体現しているサービスを作っているというところに、「自分はここで働いていきたい」と感じたのだということを、気付いてくれたんですね。もし年収が本当にその人の目的なのであれば、「それはウチの会社ではないな」と思っています。そういった気持ちを素直に話すというのが、マネジメント…対話かと。そのやり方のひとつかなと思います。

私も1on1で話した中で、やはり過去に年収に関するお話が出たことがあります。そういう年収に関するお話が出る背景は何かと深掘りをしていくと、やはり知り合いから「フリーランスとしてどう?」などと言われて、単価の高いもの、例えばスカウトをもらったといったお話が出ました。だいたいそういうことがきっかけになって、そこからその世界にすごく興味を持っていって、「そっちの世界はどうかな?」と他の人に話を直接聞きにいって…といった経緯だった経験がありますね。

それに関しては、フリーランスになる前に、従業員と個人事業主の収益の出方について考えると良いと思います。従業員は会社側が負担している経費が非常に多いことや、社内制度やバックオフィスが充実しているほど、仕事に集中することができます。一方、個人事業主の場合は、それらの間接費をすべて自分で何とかする必要があります。
これらを勘案すると、単純に金銭の違いだけでは比較できないことが容易にわかります。

まあそのケースでは、社員がいろいろな観点を気にしないといけないような時期でした。本人もやはり悩んでいて、「フリーランスになるのか、それとも今この会社にいたいのか」といった辺りが、まだ私たちもそこまでビジョンを確立できていませんでした。言葉でしか語ってなかった時期なんですよね。なので、そういった気持ちに対して、「どうしていきたいのか?」ということは、半年くらいずっと悩んでいましたかね。

毎回、話をするたびに、「まだ答えは出てないんだけど、今やっていることをやりきりたい」「でも長期的に見たときに、やっぱり技術で成長したい」といった意見が出ました。さらに突き詰めると、入社したときのきっかけの中心は、「私たちのところにそういう就職の機会がある」「エンジニアになれる」「そこから自分で腕を磨いていける」などといった点だったんですよね。そこで、やはり拠り所というか「何のために働くのか?」といった局面では、「会社のビジョンやミッションに惹かれて一緒に働きたいと思った人」というのが、採用の時でもすごく重要なのかなとは思いましたね。それは本人にとってもそうでしょうし、会社にとってもたぶんそうでしょうし。

カルチャーマッチですね。
レイヤーが低い人からするカルチャーマッチっていうのは、「チームに馴染めるか」というお話かなと思っているんですけど。
そういう文脈でカルチャーマッチという言葉を使う方も中にはいるのかもしれないですけど、真意としては、「会社の目指すべき方向性と、自分の人生が合っているか」というのが真のカルチャーマッチかなと思っています。なので、別にビジョンや理念について自分の中で納得できているのであれば、チームの中でのいざこざなどは、すべて問題と課題に分けられる。そして「解決すべきもの」っていう認識になるので、そこは不満にならないんですよね。

そうですよね。確かに。

採用の時点でそこは弾くというか、かなり見ますね。真意で使っているカルチャーマッチについては、面接ですごく気にしています。

確かにそうですね。
そのような視点で「会社のこのビジョンや理念を体現していきたい」と謳っている中でなら、もし人間関係のいざこざが起きたとしても、それは乗り越えるべきでしょうし、そういうふうに捉えられる。そんなイメージですよね。

そうですね。
ビジョンを達成するための障壁なのであれば、「解決すればいいや」という思考になりやすいのかなとは思います。まあそこまでメンバーだけでできるかどうかは別問題ですけど。

理念への共感とエンジニアリング…二律背反な状況を想定して、納得できるまで考えた方が良い

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もう一歩踏み込んだご意見を伺いたいなと思うのですが、勤める会社によってシステム化できる度合、あるいは例えばWebアプリケーションを作って業務をサポートすることができても、「機械学習のプログラムまではいらないよね?」「ビジネスモデル上いらないよね?」とか、「システム化自体も別に、ホームページがあればいいじゃないか?」っていうような仕事も世の中にはあると思います。

例えば、そこの理念ややりたいことには共感していても、「でも自分の技術力も欲しい!」みたいなこと、あるじゃないですか!「そういう気持ちとどう付き合うのか」を考えた場合、「働き方の多様性をもって副業をする」という選択肢もあるかもしれません。でも本業で使える時間量ってすごく多いですよね。本業で使える時間の価値をMAXにしていかないともったいないと思ったりもします。星さんは、この辺はどんなふうにお考えですか?

それはすごく難しいですね。実際、私も昔、葛藤がありました。
某アパレルベンチャーに転職しようと思った時があったんです。私がその会社のビジョンややっていることにすごく共感したからなのですが、すごくファンなんですよ。今日、私が着ている服もその会社の服ですし。

そうなんですね。もうコアファンなんですね。

はい。
そこで実際に、転職の話を聞きに行ったんです。面接というよりは、お話を聞きに行くという感じ。そのときに会社の理念やビジョン、やっていることなどには、非常に納得しました。むしろ「入りたい」とさえ思ったのですが、開発担当の方とお話をしたときに、「別にWebサイトというのはそこまで主じゃない」といった内容のお話が出たんです。そのときの私は24歳だったかな…当時はゴリゴリに「エンジニアとして輝きたいんだ!」と思ってたんですよ。

そうですよね。たぶん、「これからだ!」っていうイメージですよね。

そうですね。だからその部分はちょっと、自分の本意ではないかもと思えました。意図的戦略では「エンジニアとしてスキルを磨く」というところがメインストリームとしてあったので、そこを優先しました。

なるほど。そこに対しての向き合い方というのは、どのようなあり方があるのでしょうか?
やはり、中には「理念ベースで仕事を選んで、技術力も身についたよ!」と仰る方もいらっしゃるものでしょうか。二律背反になってしまう場合もありそうですが、いかがでしょうか?

そうですね…私は、さまざまな状況や条件を想定することかなと思っています。
例えば、ビジョンに惹かれて入社して、エンジニアリングができなくなった場合、「それでも納得できるのか?」ということも想定した上で、入れるかどうかかとは思いますね。反対に、別にビジョンとかには全く共感していないが、スキルレベルはすごく上がるというときでも、入社した場合を想定をして、「価値観に照らし合わせてどちらがいいのか?」というところは、納得するまで考えた方がいいかなと思います。

そうですね。

あとは、面接とかにおいて、やはり不確実性もありますよね。

ありますね。

面接だと、やはり面接担当者もバイアスがかかりますので、「自社に入れたい」という思いから、キラキラしたことを言うんですね。「今はこうだけど、将来的にはこういったことをしていきたい」「技術的なこともちゃんとやっていきたい」といった話をよくするんですけど、「実際はどうなのか?」という話を引き出した方がいいかなと思いますね。

つまり、未来だけを見て語るお話ばかりではなく、「その未来に至るまでに、何をしなければいけないのか」「どういう条件が揃ったらそれができるのか」といった辺りも確認しておく必要があるのかもしれないですね。

そうですね。私も結構いろいろ調べましたね。SNSの情報とか、「どういう人がエンジニアなのか」「どんなものを作っているのか」とか。
かつて調べた中には、エンジニア的に「これはないだろ…」と感じるシステム構成の会社もありました。ということで、その会社にいるエンジニアのスキルの想像もつきましたし、技術選定が微妙だと思うところもあり、「ここは事業的には伸びる、ただ、転職するのは今じゃない」となりましたね。

自分のキャリアについて時間をかけて考えを深めてみよう

Image from Gyazo

ありがとうございます。最後にもう1つだけいいですか?
星さんが24歳の頃の体験というのは、すごく血気盛んなイメージが湧きました。それが年次を重ねて経験も重ねられて、レベルアップをして違うステージに来て、やがて50代、60代と上がっていくと思います。そこで、教育業界もそうなんですけども、年齢が上がって第一線を一旦退いた方が後進の育成に回るケースや、40才を超えたあたりでそういった道を考え始める方が結構多いです。実際、私の知人でも結構いらっしゃいます。
その技術に対しての想いが転換するタイミングというか、そういうキャリア観は、星さんの中にもあるものなのでしょうか?

まず、その転換があったタイミングとしては、リーダーやマネージャーになったあたりから、技術に対する考え方が全然変わりましたね。
やはり技術とは手段なので、そればかりを追い求めても、手段が目的化したら、本当に意味がないと思っています。エンジニアとして、もちろん「作るのが楽しい」というのもありますが、技術だけを追い求めても何にもなりません。「価値も生み出さなくては」という考えが、リーダーやマネージャーになった25〜26歳くらいのときにはありました。

そこから2018年にピクスタ株式会社の開発部長になった時に、技術戦略などを考えはしますが、実際にはほとんど手を動かさないという状況になりました。また、ロジカルシンキングの勉強会の講師といった、エンジニアリングとは直接関係のない仕事に携わったときに、「私はエンジニアなのか?」といった葛藤はやっぱりありました。そこでやはり悩み始めるんですね。
そして、やはり30歳になったときの長期的な戦略を考えるのですが、さっきの「後進を育てたい」という話と通じるものがありました。「人類を一歩前進させたい」という、自分のビジョンと言いますか。

個人の、星さんご自身のってことですね。

そうです。
そういうビジョンを掲げたりしました。キャリアについては誰しもが、5年ごとくらいに悩むとは思います。5年先、10年先を見通せるかはさておき、「どうなっていたいのか?」というのは、時間をかけて定義した方が良いと思います。「定義」というのは「考えを深める」ということですかね。そういったことが必要かなとは思います。
それがあると、エンジニアリングなどに関係なく、エンジニアの中での後進を育てるために必要なビジネスロジックとかを教えることは別に厭わなくなります。

ありがとうございます。
そうするといつの日か星さんが、技術だけではなくビジョンや理念などにもすごく共感できる会社にまた入って、そこのサービスに携わる…ということもあるんでしょうかね。

それは全然あると思いますね。転職は「1回失敗したら終了」ではないので。

そうですね。私も4回くらい転職しています。
回数自体よりも、その人の人生において本気でコミットできるものだったら、それがいいと思うんですけどね。

簡単な言葉で言うと「タイミング」ですね。
そのタイミングの中に、やっぱり価値観の変遷だったりとか、技術レベルの話や待遇の話とかもいろいろあるんですけど、そこがバシッと合ったところかなと思いますね。

星さん、ありがとうございました。

まとめ

・「会社の目指すべき方向性と、自分の人生が合っているか」というのが真のカルチャーマッチ。ビジョンを達成するための障壁なのであれば、「解決すればいいや」という思考になりやすいと考えられる。
・会社の理念やビジョンへの共感、そこで得られる経験など自分の求めているものを鑑みて、もし一方が得られなくなったときに「それでも納得できるのか?」ということも想定した上で、その会社に入れるかどうかを考えてみる。
・5年先、10年先を見通せるかはさておき、「どうなっていたいのか?」というのは、ある程度の時間をかけて定義した方が良い。転職は「1回失敗したら終了」ではない!

いかがでしたでしょうか?
会社に入社する際に、自分は何を求めるのか、求めるものの中で何を優先するのか、迷われる方は多いです。しかし、自己分析や企業分析を深めることで、自分の向き不向きや目指す方向性が見えてくることがあります。ぜひこの機会に、ご自分の今後の人生や「5年後や10年後にどうなっていたいか」をイメージされてみてください。

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